玉虫羽根蒔絵加飾

Tamamushi Hane maki-e

玉虫羽根蒔絵加飾とは

この技法は、法隆寺所蔵 国宝「玉虫の厨子」の復興プロジェクトという、およそ1,400年前に推古天皇が仰ぎ見た玉虫厨子の輝きを現代によみがえらせようというプロジェクトを機に、玉虫の羽根を漆に定着させる技法を編み出したことにより確立されました。

まさに輪島塗という日本唯一の重要無形文化財である塗の技法に相応しい蒔絵技術の一つとも言えます。実に多方向、多角度からの不思議で、かつ美しい輝きは、私達を魅了し、およそ1,400年前、推古天皇が仰ぎ見ていた美しい輝きと同じ輝きであると思うと、何か不思議な感動と 滄溟 そうめい 感、そして神秘的な情感を覚えます。

このような玉虫羽根蒔絵加飾の作品を手掛けるのは、輪島塗産地においても、当工房の立野敏昭のみであり、全国的にみても唯一性があり、オンリーワンの技術が特徴と言えます。

動画

玉虫との出会い

玉虫について

玉虫は温かい地方に生息し日本でも沖縄から青森までは生息しています。

玉虫はカブト虫科ですが、セミと同じように5年間朽ちた木の中で育ち活動期間は夏の2ヶ月間のみで秋には地面に落ちて枯れ葉に埋もれてしまいます。なかなか人目につかないので昔は縁起物として、玉虫の羽を箪笥(たんす)に入れておくと着物が増え、鏡台に入れておくとお嫁にいけ、財布に入れておくとお金が増えると言われ、大変貴重なものとされていました。

蒔絵師としての誇り

蒔絵師は、漆器の表面に漆で絵を描き、乾かないうちに金粉銀粉などを「蒔く」ことで絵を定着させる職人です。絵の部分にアワビや真珠やサンゴを嵌め込む技法もあり、七色の光を放つ玉虫羽根も蒔絵の材料として注目された事もありましたが、たっぷりの油分に覆われた羽は強力な接着力を持つ漆や膠も寄せ付けず、実際に使われる事は無く、玉虫の羽を固定できる糊は理論的には存在しないと言われていました。そこから昼夜を問わず羽と向き合う日々が始まり、様々な条件下に於いて実験を繰り返し、表面の光沢を失うことなく強力な接着方法を半年後には確立することができました。

国宝「玉虫の厨子」の復興

飛鳥時代に造られた玉虫厨子は、日本史上最古の工芸品ともいわれる傑作であり、推古天皇が自身の宮殿において拝んだとされ、国宝に指定されています。

透かし彫りの金具の下には、名前の由来となった玉虫の羽が敷き詰められていたと伝えられていますが、現在までにほとんどが抜け落ち失われてしまったと言われていますが、現存する玉虫羽根は1,400年経った今でも、その輝きは失われる事なく光り続けています。

この国宝を蘇らせるプロジェクトは平成16年に始まり、平成20年には、1,400年前と全く同じ塗り方、同じ蒔絵の描き方で6,000枚の玉虫羽根を使った玉虫厨子1基と、現在の最高の技術の輪島塗に36,143枚の玉虫羽根で壁面の蒔絵を施した「平成の玉虫厨子」の2基の完成に至り、奉納されました。

技の確立

国宝「玉虫の厨子」の復興プロジェクトは、玉虫の羽6,000枚を使い、一つはかつての玉虫の厨子の姿を忠実に復元する事、もう一つは、約30,000枚の玉虫羽根を漆塗りの側壁に並べて装飾画を描き、「平成の玉虫厨子」と進化させたものを造るという二つの課題が課せられたものでした。
全国の蒔絵師から選考を行い、その結果、玉虫羽根を使った試作品の中で当工房の立野が最も高く評価され、職人として「1,000年に一度のチャンス」に巡り合うことができました。

しかし、玉虫の羽を固定できる糊は理論的には存在しないと言われ、全長3cmの玉虫との戦いは想像を絶するもので困難を極めるものでした。昼夜を問わず羽と向き合い、「本来なすべき輪島塗とは何ぞや、あるべき姿の輪島塗とは・・・」と禅問答的な思考を繰り返しながら、様々な条件下に於いて実験を繰り返すことで、表面の光沢を失うことなく強力な接着技法を生み出すことに成功し、ここに玉虫羽根蒔絵という技法が確立されました。

玉虹ブランドへの進化

Gyoku Kou

これらの制作機会は、飛騨高山の実業家である故中田金太(平成19年他界)氏の依頼によるもので、同氏は玉虫蒔絵による茶道具や茶器を集めた「茶の湯の森美術館」を主宰していました。

同氏は、この貴重な玉虫の羽根を使い、初めて漆に定着させる蒔絵技法を用いた絢爛豪華な玉虫蒔絵の輝きを世界の方々に見て頂きたいと考えると共に、古の日本文化、匠の技術を世界に発信したいと考えていました。

平成19年には、ニューヨークのメトロポリタン美術館や韓国の故宮博物館にも企画展示をする予定でしたが、同氏が他界したことにより、その夢は実現できず、玉虫蒔絵のコレクションは、「茶の湯の森美術館」に展示されているのみとなっています。

その高貴な意思を継いで、古の日本文化、匠の技術を世界に発信したいと私達も考え、ブランドの構築を手掛けています。玉虫の玉はギョクと読み、この玉とは、古来より中国においては、宝石を意味します。つまり、宝石の如く、不思議な輝きを放つ虫ということで「玉虫」と呼ばれているのです。多方向、多角度から見ると、不思議な輝きや不思議な変色を楽しませてくれる玉虫羽根蒔絵加飾を、私たちは七色に輝く虹のような宝石という意味で「玉虹(ギョクコウ)」と名付けました。